2026年3月1日日曜日

エスカレーターで人生を考える男

上りのエスカレーターに乗った瞬間、私はいつも哲学者になる。
たった数十秒なのに、やたらと深いことを考え始める。
「人生って、これに似てへんか?」と。

立っているだけで上に運ばれる人。
横をスタスタと歩いて追い越していく人。
私はだいたい、立ち止まりながらも周囲を気にしているタイプだ。

「歩いたほうがええんかな。」
でも、ここで無理して転んだらかっこ悪い。
安全第一という名の言い訳を、今日も胸に抱く。

途中でふと気づく。
そもそもこの階、ほんまに用事あったっけ?
目的もあいまいなまま、私は着実に上へ運ばれていく。

到着してから気づく。
「あ、ひとつ下やった。」
人生の遠回りを、たった十秒で体験する。

下りのエスカレーターに乗り直しながら、また考える。
遠回りも、まあええか。
立ってるだけでも、ちゃんとどこかには着く。

エスカレーターで人生を考える男は、今日も小さな哲学を抱えている。
ただし、だいたい目的地を間違える。
それでもなんとかなるのが、大阪のいいところ…たぶん。



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粉もんと雑念と日曜日

日曜日の午後は、だいたい粉もんの匂いがする。
どこからともなく漂ってきて、私の理性をゆっくり溶かしていく。
「今日は軽めにしとこ。」という決意は、たいてい三分で消える。

お好み焼きか、たこ焼きか。
この選択だけで、なぜか人生を問われている気分になる。
どっちを選んでも正解やのに、やたら真剣に悩む。

鉄板の上でジュウジュウと音を立てる生地。
その音を聞いていると、頭の中の雑念まで一緒に焼かれていく気がする。
月曜の仕事のことも、部屋の片付けも、とりあえず裏返しておこう。

ソースをかけすぎて、「あ、ちょっと濃いな」と思う。
でももう戻れない。
人生も粉もんも、かけすぎ注意である。

マヨネーズをジグザグにかけながら、ふと思う。
こんな平和なことで悩んでいる日曜日は、案外悪くない。
粉もんがあるだけで、世界はちょっと丸くなる。

結局、お腹いっぱいになって動けなくなる。
雑念も消えたけれど、やる気も一緒に消えた。
まあええか、今日は日曜日やし。
粉もんと一緒に、雑念もほどよく焼き上がった午後だった。



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商店街で迷子になった財布と私

昼下がりの商店街は、なぜか時間の流れがゆっくりだ。
コロッケの匂い、八百屋の呼び声、謎に安い靴下のワゴン。
私はただ散歩していただけのはずだった。

ふとポケットに手を入れる。
ない。
財布が、ない。

一瞬で頭の中がフル回転する。
「落とした?」「さっき払った?」「人生終わった?」
まだ何も起きていないのに、心だけが最終回を迎えそうになる。

来た道を戻りながら、商店街を捜索開始。
パン屋、薬局、たこ焼き屋。
なぜか財布より先にセール情報ばかり目に入る。
人間の集中力は信用できない。

「もしかして財布も散歩してるんちゃうか。」
そんな考えが浮かぶあたり、もう半分あきらめている。
商店街のどこかで、財布がコロッケを見ている気さえしてくる。

結局、財布は上着の内ポケットから発見された。
さっき自分で安全な場所に入れていたらしい。
安全すぎて、持ち主に忘れられていた。

商店街で迷子になったのは、財布じゃなくて私の記憶力だった。
でもまあ、こういう小さな騒動も悪くない。
今日も財布と私、無事に帰宅できそうだ。



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天満の路地で小さな事件

夕方の天満は、だいたい何かが起きそうな空気をしている。
細い路地、赤ちょうちん、やたらと近い隣の席。
大事件は起きないけれど、小さな事件はだいたい起きる。

その日も、私は串を片手に平和に飲んでいた。
何の変哲もない、穏やかな時間。
ところが、足元に違和感。

……右と左、違う靴やん。

家を出るときは確かに同じだったはず。
いや、たぶん同じだった。
でも現実は、黒とネイビーが仲良く並んでいる。

「天満やし、まあええか。」
なぜかそう思ってしまう不思議。
誰も気にしていないし、むしろ隣のおっちゃんはもっと自由な柄シャツを着ている。

路地の奥では、店員さんが大声で注文を通し、
向かいの席では初対面同士がもう親友みたいに笑っている。
靴が左右違うくらい、ここでは誤差だ。

天満の路地で起きた小さな事件は、
私の完璧主義をちょっとだけ溶かしてくれた。
完璧じゃなくても、ちゃんと楽しい。

黒とネイビーを連れて、今日も路地を歩く。
大事件は起きないけれど、たぶんまた小さな何かは起きる。
それくらいが、ちょうどいい。



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ネオンと毛穴と私の悩み

夜の街はだいたい盛れている。
ネオンの光がやさしくて、ビルも人もなんとなくキラキラして見える。
でも問題は、私の毛穴だ。

昼間はそこまで気にならなかったはずなのに、
コンビニのガラスに映った自分の顔を見た瞬間、現実がやってくる。
「おや?その頬の凹凸、今日も元気やな?」

ネオンは優しい。
遠くから見れば、全部いい感じにしてくれる。
でも近距離になると急に仕事を放棄する。
スポットライトみたいに、毛穴だけ主役にしてくるのはやめてほしい。

「まあええか。」
そう思っても、ついスマホのインカメを開いてしまう。
拡大して後悔するまでがワンセットだ。

けれど、ネオンの下を歩いていると、だんだんどうでもよくなってくる。
みんなそれぞれ悩みを抱えて、同じ光の下を歩いている。
毛穴くらいで止まっている暇はないのだ。

ネオンと毛穴と私の悩み。
たぶん明日も同じことで少し悩む。
でも今夜は、光の中でちょっとだけ笑っておこう。
毛穴も私の一部やし、ネオンも味方…たぶん。



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大阪駅前の信号と私の焦り

朝の大阪駅前は、だいたい急いでいる。
誰もが少しだけ早歩きで、誰もが少しだけ余裕がない。
そして私は、だいたい信号に負ける。

目の前で青が点滅する。
「あ、いけるか?」と一瞬考える。
でも次の瞬間、無情にも赤。
大阪駅前の信号は、私の性格をよく知っている。

「もうちょい早よ家出たらよかったやん。」
と、心の中で自分にツッコミを入れる。
なのに次の日も同じ時間に家を出る。
学習能力は、たぶん梅田の地下に置き忘れてきた。

周りを見ると、みんな平然と立っている。
スマホを見たり、コーヒーを飲んだり、まるで悟りを開いたかのように。
焦っているのは、どうやら私だけらしい。

ようやく青に変わる。
なぜか必要以上に早歩きになる。
さっきまで止められていた分を取り戻そうとする、小さな抵抗だ。

大阪駅前の信号は、今日も私を止める。
でも、その数十秒の赤信号が、意外と悪くない。
焦りながらも、ちょっと笑っている自分がいる。
どうせまた止まるんやし、たまには信号に負ける日があってもええか。



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心斎橋で迷子になった大人

午後の心斎橋は、人も情報も多すぎる。
ショーウィンドウの光、流れてくる音楽、やたらと元気な店員さん。
気づけば私は、方向感覚よりも物欲に引っ張られて歩いていた。

「あれ、さっきどこ曲がったっけ?」
スマホの地図を開くけれど、青い点が自信なさげに震えている。
大人になったはずなのに、心斎橋ではすぐに迷子になる。

しかも迷子のくせに、ちょっとカッコつけている。
「別に迷ってへんし、ちょっと散策してるだけやし。」
そう思いながら同じドラッグストアの前を三回通る。

カフェを探していたはずなのに、なぜか靴屋に入り、
トイレを探していたはずなのに、なぜかアクセサリーを見ている。
心斎橋は、目的を静かに溶かしてくる街だ。

最終的にたどり着いたのは、さっき通ったはずの交差点。
「あ、ここ知ってる。」と急に安心する。
知らんかったけど。

心斎橋で迷子になった大人は、少しだけ素直になる。
方向音痴も、優柔不断も、物欲も、全部まとめて笑ってしまえばいい。
迷うのも、悪くない。
だってここは心斎橋。
大人でも堂々と迷子になれる街なのだから。



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串カツと私の人生相談

夕方の暖簾をくぐると、ソースの香りがふわっと鼻をくすぐる。
カウンターに座ると、目の前には揚げたての串カツたち。
今日はちょっと人生相談でもしようか、という気分だ。

「最近、なんかうまくいかへんねん。」
そう小声でつぶやきながら、牛串をソースにくぐらせる。
もちろん返事はない。ないけれど、衣がサクッと音を立てた瞬間、なぜか励まされた気がする。

エビ串はちょっと背伸びしたい日の自分みたいだし、
レンコンは妙に現実的で、「地に足つけや」と言ってくる感じがする。
二度漬け禁止のソースは、人生のルールみたいなものかもしれない。
やり直しはきかへんで、と静かに主張している。

それでも、串カツは優しい。
失敗しても、落ち込んでも、とりあえず揚げてくれる。
油の中で一度ぐらぐらしてから、きつね色になって出てくる。
ああ、人間もこうやって揚げ直せたらええのにな、と少し思う。

最後に紅しょうがの串をかじりながら、今日の相談は終了。
答えは出ていないけれど、お腹は満たされた。
たぶん人生もそんなもんや。
串カツと私の人生相談は、今日もソースの香りとともに、ゆるく幕を閉じる。



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道頓堀で財布をなくす気分

昼下がりの道頓堀、観光客の声やネオンのざわめきが混ざり合う。
ふと自分のポケットを探ると、財布がない。
「あれ、さっきまであったはずやのに…」と、心の中でつぶやく。

財布をなくす気分というのは、不思議なものである。
焦る気持ちと、なんとなく面白い気分が同居して、笑いがこみ上げてくる。
道頓堀の川沿いを見下ろすと、「俺の財布、泳いでるんか?」と冗談めかして思う。

通り過ぎる観光客に混ざって、財布の行方を想像する。
たこ焼きの屋台の陰に隠れているのか、ネオンの光に照らされて光っているのか。
小さなパニックと、大阪特有の陽気な雰囲気が、妙にマッチする。

結局、ポケットの奥から財布は現れた。
「あ、あった!」と心の中でガッツポーズ。
でも、道頓堀で財布をなくす気分のあのスリルは、ちょっとクセになりそうだ。
大阪の街は、笑いも焦りも一緒に味わわせてくれる。

財布も無事、たこ焼きも買えて、午後は平和に戻る。
でも次に道頓堀を歩くときは、少しポケットを気にしながら、笑いを抱えて進もうと思う。
大阪は、そんな小さな冒険が日常になる街なのだ。



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たこ焼きに説教される午後

午後の商店街、少し肌寒い風が頬を撫でる。
小さな屋台のたこ焼きの香りが鼻をくすぐる。
ふと、立ち止まって串を手に取ると、なんだかたこ焼きに説教されている気分になる。

「もっと丁寧に歩きや!」
「手抜きの顔じゃあかんで!」
そんな声が聞こえるわけではないのに、串を持つ手に力が入る。
気づけば、焦げ目のついた一粒一粒が、私の雑念を笑っているような気がする。

コロコロ転がるたこ焼きを見ながら、今日の自分を振り返る。
朝のスキンケアを手早く済ませたこと、服装を適当に選んだこと、全部見透かされている気がする。
大阪の街は正直だ。屋台のたこ焼きも、街の人も、手抜きには厳しい。

でも、説教されても悪い気はしない。
むしろ、少し反省して、もう一度顔を洗い直したくなるし、服のボタンも整えたくなる。
午後の商店街と、たこ焼きの香ばしい説教が、私をちょっとだけまっとうにしてくれるのだ。

今日も、たこ焼きに説教されながら、街を歩く。
毛穴も雑念も、少しだけ整った午後のこと。
笑いながら、自分を磨く時間は、大阪の特権かもしれない。



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