昼下がりの商店街は、なぜか時間の流れがゆっくりだ。
コロッケの匂い、八百屋の呼び声、謎に安い靴下のワゴン。
私はただ散歩していただけのはずだった。
ふとポケットに手を入れる。
ない。
財布が、ない。
一瞬で頭の中がフル回転する。
「落とした?」「さっき払った?」「人生終わった?」
まだ何も起きていないのに、心だけが最終回を迎えそうになる。
来た道を戻りながら、商店街を捜索開始。
パン屋、薬局、たこ焼き屋。
なぜか財布より先にセール情報ばかり目に入る。
人間の集中力は信用できない。
「もしかして財布も散歩してるんちゃうか。」
そんな考えが浮かぶあたり、もう半分あきらめている。
商店街のどこかで、財布がコロッケを見ている気さえしてくる。
結局、財布は上着の内ポケットから発見された。
さっき自分で安全な場所に入れていたらしい。
安全すぎて、持ち主に忘れられていた。
商店街で迷子になったのは、財布じゃなくて私の記憶力だった。
でもまあ、こういう小さな騒動も悪くない。
今日も財布と私、無事に帰宅できそうだ。
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